「『ファッションはアートなのか』という、半ば不毛な問いはいつまで立てられ続けるのだろうか」。そのような疑問が今号の特集「ファッション・デザイン・アート」の出発点にあります。アートを広く芸術の意味で捉え、そのサブカテゴリーに絵画や彫刻、デザインや映画、マンガや工芸などを位置付けるのであれば、もちろんファッションもそのサブカテゴリーのひとつとなるでしょう。しかしながら、アートを狭義の――絵画や彫刻などの――ファインアートと理解するのならば、それとファッションは違うものであることは言わずもがなでしょう。
とはいえ、ファッションとファインアートもまったくの無関係というわけではありません。欧米では、20世紀におけるファッションとファインアートの関係を検証するような展覧会が少なからず開催されているように、互いに目配せをしてきたともいえます。一方で、ファッション――正確に言えばファッションデザイン――はデザインの一分野でもあります。ただし、産業のあり方やビジネスの慣習など、他のデザインの領域と異なる点が多いことも事実でしょう。
今号では、ファッション・デザイン・アートがそれぞれ独立したジャンルであることを前提としながらも、現在において各分野がどのような関係を結びつつあるのか、多様な側面からの検証を試みます。インタビューでは、東京藝大で美学を学んだファッションデザイナーの小野智海氏、ファッションデザイナーやスタイリストとのコラボレーションも多い演劇作家の藤田貴大氏、Google の「プロジェクト・ジャカード」の開発にも携わるデザイナー/アーティストの福原志保氏の三者に話を聞いています。論文では、先述のファッションとアートをめぐる展覧会の意義を明らかにする利根川由奈氏、バイオファッションという新しい動向を探る高橋洋介・川崎和也両氏のテクストを掲載しています。その他、書籍紹介や展覧会紹介などでも本特集と共鳴するテーマを忍ばせています。
本誌は編者の見解を押しつけたり、明確な答えを提供したりすることは目指しておりません。読者諸氏が自身の見解を持つきっかけを提供すること、それさえできていれば私たちの目標は達成されたと言えるでしょう。本誌がファッション・デザイン・アートをめぐる思考を深める契機になることを願います。