『tanec(タネッツ)』は、チェコ語で「ダンス」の意味をもつ言葉を冠した雑誌です。
発行人の藤田琳さんによれば、すばらしい!と思うものに出会った時に、心臓が早く打つことや、思わず立ち上がって拍手をしたくなること、とにかく誰かに伝えたい!とソワソワすること、頭はまとまらないけれど、この気持ちを残しておこうとペンを取ること、そういうことの全てを、身体が、そして心が「踊っている」と表現できるのではないかという思いで名付けられています。
ロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えない中で、ウクライナ人の友人サーシャさんとの交流を通じて知ったこと、特にサーシャさんが専門とするウクライナの人形劇についてのお話が本号のメイン記事となります。巻末には、「ウクライナのことを考え続けるために」と題して、ウクライナについて知るための書籍や映像等の情報がまとまっているなど、この本だけに留まらずに考え続けることを促してくれます。
藤田さんの「はじめに」には、戦争や平和について考える切実な思いと、現実と真正面から向き合ったことによって、これまでの考えのままではいられないことを悟りながらも、ではどうすればいいんか葛藤の中で本書の制作に向き合ったことがよく表れています。以下、非常に印象的な文章を引用します。気になったかたは、ぜひ本書を手に取ってみてください。
"私が日本で教わってきたのは「どんなことがあっても戦争は絶対にダメ」ということ。でもそれはリアリティを欠いた漠然とした「戦争」で、この「勝利」という言葉によって戦争とはどんなものなのかを突きつけられました。サーシャの文章を読み、翻訳して、翻訳という行為とその時間を通じて、故郷を傷つけられたサーシャやウクライナの人々に心を寄せる家庭の中で、サーシャに対して「とにかく平和が大事だよ」なんてとても言えないと思ったし、私も同じことが自分の国に起きたら「勝利を」と言うだろうと簡単に予想ができるようになりました。自分にとって大事なもの(文化や人や自分自身や・・・)を戦争にとられてしまったり、捧げたいと思うようになったりする時のことを想像して、ものすごく悲しくなりました。
今、私の中には、文章を読んで翻訳をすることでよりウクライナに心を寄せるようになりウクライナの人が納得する形で戦争を終えてほしいーーすなわちウクライナに「勝利」をと思う自分と、誰にも死んでほしくないし、殺してほしくない、とそれでも「平和」を願う自分が共存しています。私は、サーシャの言葉を通じて、サーシャの現実と(そのほんの一部ではありますが)対面しました。"
----以下、公式より引用----
2023年の夏、ウクライナ人の友だちができた。 ウクライナで人形劇団のプロデューサーをやりながら、チェコで芸術アカデミーに通って演劇理論を学んでいるサーシャ。
今ウクライナってどうなっているの?ウクライナの人形劇ってどんな感じなの?私の質問に応答するために、サーシャは原稿を送ってくれた。 受け取った原稿には、地下鉄を巡り避難民向けに人形劇を上演する劇団、軍服姿でマリオネットを操るアーティスト…ウクライナの人形劇人たちの力強い姿、そしてサーシャの見る夢が語られていた。
「ウクライナの友だち」に聞いたウクライナ人形劇のいま。そして、戦争と平和と芸術について日本人の私が考えたこと。